漏水事故は、種々の要因や原因により発生し、様々な損害・トラブルを引き起こします。それぞれのケースや場面に応じて適切な処理・処置が必要となります。
 弁護士業務と並行して、裁判所の非常勤裁判官(民事調停官)として勤務し漏水問題、借地や借家に関する紛争、相隣関係問題ほか、不動産に関する多くの様々な民事調停事件に携わってきました。漏水に関する問題でお困りでしたら、お気軽にご相談ください。

 1 漏水箇所の確認  2 漏水被害の責任  3 漏水被害の賠償  4 漏水トラブルの事例 

1 漏水箇所の確認

⑴  確認方法と記録事項
 漏水事故が発生した場合、まず水漏れ状況を確認し、記録化すべきです。証拠保全という意味でも、部屋の何処から水が漏れて来ているのかなどを、できる限り詳しく、写真や動画などで撮影し、保存しておくことが大切です。

 次に、漏水の原因を特定する必要があります。排水管に亀裂が生じたことが原因なのか、雨漏りが原因なのか、上階の居住者が水を漏らしてしまったことが原因なのか等々、水漏れの原因を特定する必要があります。多くのケースでは、業者によって漏水箇所の特定と補修作業が行われるものと思われますので、できる限りその作業に立ち会い、写真や動画で撮影しておくべきです。

 また、何日の何時頃、どこから水が漏れてきて、どのような被害にあったかなどを、出来る限り詳しくメモしておいた方が良いでしょう。

⑵  民事訴訟上の証明責任
 上記のような作業が必要となることについて、民事訴訟において重要な証明責任と関係があります

 例えば、マンション天井から汚水が漏れてくるというトラブルがあったとします。そのような時に、上の階の居住者に対し、損害賠償請求をしようとする場合、請求する側(漏水被害を受けた下の階の居住者)が、漏水事故と損害の発生に加え、漏水の責任が上の階の居住者にあることについて証明する必要があります。

 そのような証明ができない場合、損害賠償を請求できない可能性があります。

2 漏水被害の責任

 漏水個所と原因が分かったとして、誰に対して、損害賠償を請求することになるのでしょうか。
ケースに分けて、説明します。

⑴  不法行為が問題となるケース
 例えば、飲食店を営む事業者が、駅前の商業ビルに新規店舗を出店するにあたり、2階テナントを借りて内装工事を行ったところ、内装工事を受注した工事業者の不手際により漏水が発生し、1階にある医院の医療機器などに被害が生じたとします。
 このような場合、1階の医院は、内装工事の不手際により損害を被ったとして、内装工事業者に対する損害賠償請求を、検討することになります(民法709条)。

 なお、上記のようなケースで、内装工事を発注した事業者(新規店舗を出店しようとしていた事業者)による誤った注文や指図が原因で、漏水が発生したとします。
 そのような場合、1階の医院は、内装工事を発注した事業者に対する損害賠償請求も、検討することになります(民法716条但書)。

⑵ 土地の工作物責任が問題となるケース
 マンションの居住者が、ベランダの排水口にゴミが溜まったままの状態で放置したところ、ゲリラ豪雨によりベランダに溜まった雨水が部屋に流れ込み、結果として下の階の店舗に雨水が漏れ、商品などに被害が生じたとします。
 このような場合、下の階の店舗は、工作物の設置又は保存に瑕疵があったことにより損害を被ったとして(民法717条)、マンションの居住者に対する損害賠償請求を、検討することになります。

⑶ 賃貸人の修繕義務違反が問題となるケース
 アパートの所有者(賃貸人)が、屋根の修繕などを怠ったため、天井から雨水が漏れてきて、アパートを借りている賃借人の家電、家具などに被害が生じたとします。
 このような場合、アパートの賃借人は、アパートの修繕義務違反により損害を被ったとして(民法606条)、賃貸人に対する損害賠償請求を、検討することになります。

⑷ 請負人の責任が問題となるケース
 テナントビル一棟の所有者が、工事業者に外壁の防水工事を依頼したが、その工事に瑕疵があったため、雨水が侵入し外壁板にひびや亀裂が入ってしまったとします。
 このような場合、ビルの所有者は、外壁の防水工事が予定されていた品質を満たしていない(契約不適合)として、工事業者に対する補修工事請求や代金減額請求などを、検討することになります(民法559条、562条、563条)。

3 漏水被害の賠償

 水漏れ事故が起こると、様々な損害が発生しますが、すべての損害につき賠償が認められている訳ではありません。漏水により、通常生じると解される損害についてのみ賠償が認められるなど、賠償の範囲に一定の限度があります。
 賠償の範囲が問題になるものとして、以下のようなものがあります。

⑴ 什器備品・家具など動産の損害
 店舗内にある什器備品や居室内にある家電及び家財道具などに、汚水が被り使用不能になった場合、買い替え費用や修理が必要となりますので、その費用の賠償が認められます。

 ただし、例えば、買い替えが必要な場合であっても、買い替え費用のすべてについて、賠償が認められる訳ではありません。原則として、漏水事故が発生した時点の時価の範囲で賠償が認められることになります。

 例えば、2年前に3万円で購入した電子レンジが、漏水により壊れて使えなくなった場合、3万円の賠償が認められる訳ではありません。3万円で購入した電子レンジも、2年間使用すると価値が下がります。そのため、電子レンジが漏水被害にあった時の時価などが、賠償額の上限となります。

 実際には、漏水事故が発生した時点での時価を把握することが難しいケースもあり、そのような場合は、購入時から経過した年月や漏水被害の大きさなどを勘案し、購入費の○○パーセントが損害として認定される場合や、税務上使用されている減価償却による価値の把握を参考にして損害が認定される場合などがあります。

⑵ 内装工事費
 漏水により、壁紙などの内装が痛んだ場合、内装工事を行う必要がありますので、その費用の賠償が認められる可能性があります。

 ただし、内装も時間とともに劣化していきますので、上記⑴の動産の損害と同じように考えることになります。
 実際には、漏水事故が発生した時点での内装の時価を判断することは難しいケースがあることは、動産と同様です。

 なお、例えば、店舗・テナントなどで漏水被害があったようなケースで、内装工事を行うにあたり、店内の雰囲気を一新しようと考え、そのため内装工事費が嵩んでいるような場合、その嵩んだ費用は漏水工事の回復に必要な費用とは解されないため、賠償の範囲外と解される場合があります。

⑶ 休業補償
 例えば、病院にて、漏水被害が広範囲に及んだため、一定期間にわたり診療(営業)ができなかった場合、失った診療報酬(売上)について、賠償請求を考えることになります。
 具体的には、1日の平均的診療報酬額を算出し、そこから諸経費を引いた純利益につき賠償が認められる可能性があります。

 ただし、例えば、漏水箇所が病院の一部に留まり、漏水の量もそれほどではないようなケースでは、病院の診療を休む必要性までは認められないとして、休業補償が認められないケースもあり得ますので、注意を要します。

⑷ ホテル代
 賃貸マンションで、酷い水漏れトラブルがあり、漏水箇所の修繕と内装工事が終わるまで部屋で住めず、一時的にホテル住まいをせざるを得ないようなケースでは、ホテル代も損害として認定される場合があります。

 また、ホテル住まいの場合、自炊ができず、外食せざるを得ないケースも多いと解されますので、一定の範囲で外食費も損害として認定される場合があります。

⑸ 慰謝料 
 漏水事故により、家電や家財道具が壊れてしまった場合、原則として慰謝料を請求することはできません。

 漏水被害に遭うと、漏れてきた水を拭いたり、家電などを買い替えたりと、諸々の対応が必要となり、心身ともに大きな負担が生じます。
 漏水により精神的苦痛を受けたので慰謝料を請求したい、とお考えの方もいらっしゃると思います。

 しかしながら、漏水事故においては、慰謝料の請求が認められないケースが多くあります。
 一般的に、漏水により被害を受けるのは物であるところから、物的損害(物が壊れたことに対する損害)については、原則として慰謝料が認められないと考えられているためです。

 ただし、漏水が長期間に続いたようなケースであるとか、加害者側の対応が酷いようなケースでは、例外的に慰謝料が認められるケースもあります。

4 漏水トラブルの事例

 以下は漏水トラブルの事例ですが、水漏れ事故では様々な問題が起こりますので、トラブルの大小、軽重に関わらずお気軽にご相談ください。

⑴ 借り店舗の漏水問題
●借りている店舗で上階から突然水漏れトラブルがあったが、まずどうしたらよいか分からない

●借りていたテナントにて水漏れによる漏水被害があり、営業ができなくなってしまった。水が被った商品の損害賠償や休業期間の営業補償などを請求したい

●借りている店舗の天井裏の排水管が破損し、汚水が漏れてきて、内装や店舗備品が汚れてしまい営業ができなくなってしまった。営業補償を含めどの程度の賠償請求できるのか、また、誰に対して賠償請求できるのか、するべきなのか知りたい

⑵ 医院の医療機器の漏水被害問題
●医院の天井から漏水が発生し、医療機器に汚水が被ってしまい使用できなくなってしまったので、損害を補償してほしい

●病院の上階が、賃貸マンションになっていて、その賃貸マンションのトイレの排水管が詰まり汚水が漏れて来て、医療機器などに被ってしまった。賃貸マンションのオーナー又は賃借人のどちらに賠償請求したらいいのか分からない

●ビルの一角を賃借して営業中の歯科医院で天井からの水漏れがあり歯科医療機器に汚水が被った。ビルのオーナーが賠償責任保険を掛けていて、その保険で補償金を支払うと言うが、保険会社が歯科医療機器は買い換えるのではなく、修理して使えばよいではないかと言っている。歯科医療機器は一旦汚損するとその性格上から患者への悪影響の恐れがあるので、買い換えを基本に考えたい

⑶ 集合住宅における漏水事故の補償問題
●上の階から漏水があり、内装工事期間について仮住まい費用(ホテル代)を請求したい

●汚水を下の階に漏らしてしまい、下の階の修理工事が必要なトラブルになった。修理への補償に関して、内装工事費などに加えて慰謝料まで請求されているが、慰謝料まで支払う必要があるのか知りたい

⑷ 漏水原因の調査問題
●マンションを所有し居住しているが、キッチンの天井から、断続的に水漏れしてくるが、おそらく上の階の床下にある給水管から水漏れしているように思われる。上の階の居住者兼所有者に、床下の調査に協力するようお願いしているが、部屋への立ち入りを拒まれていて、困っている

●テナントビル一棟を所有しテナントに賃貸しているところ、漏水事故を起こしたテナントが立ち入り調査や修繕を拒否しているので、賃貸借契約を解除したい